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出会いの辺りのロール - リン

2014/08/28 (Thu) 11:31:55

(町の広場にちょっとした人だかりができていた。
 珍しい生き物がそこに出没していたのだ。ただの吟遊詩人ならこの広場にも酒場にもいる。ただの冒険者ならやっぱりいる)
~♪
(いや、冒険者と吟遊詩人を兼業しているのは決して珍しくはない。冒険者は吟遊詩人の歌から情報を、吟遊詩人は冒険者から歌のネタをといった感じで重なる部分は多い)

……。聴いてくれてありがとな!
(一曲終えて周りに礼を言う男の見た目は冒険者か用心棒、もしくは見世物小屋で猛獣と戦う荒くれ者。それが器用にリュートをかき鳴らし、朗々たる歌声は時に力強く、時には繊細に……要は見た目に似合わず上手かったのだ)

あ、気に入ってくれたらコイツに恵んでくれると大喜びだ!
(ニカリと笑う顔の左頬には刀傷があるが、その笑顔は愛嬌がある。差し出した缶……かと思いきや鋼の兜は歌っている間に盗まれぬようロープで繋がれている。そのロープを辿って行くと、この男の荷物だろうリュックサックに繋がれている。そのリュックは大きいだけではなく、厳つい鋼鎧が括り付けられていて盗むのは難しいだろう)

それ以外にも仕事とかも募集してるし、これからもよろしくな!
(極めつけはのぼりが立っている事だろう。
 その男の武器と思われる槍の旗印の様に掲げられているそれには
 「歌のネタから冒険、用心棒などなど お役に立ちますあなたのリック!」
 と書かれている。そんな文章をこの男が書いたのかと言う……珍獣見たさと、歌を聴きに来たと言う二種類の人でこの人だかりは出来ているようだ)

Re: 出会いの辺りのロール - ロシオ

2014/08/29 (Fri) 10:28:49

「ふわあ…あ、終わったの、お兄さん良かったよ!」

近くの段差に座ったままあくび交じりで黄色い声を送ったのはマント姿の若い女。
ここへ来る直前まで早朝から採取の仕事をしていた為、一休みのつもりで聴き入っていた所どうやら眠ってしまっていたらしい。
いかつい体から発せられる歌声は、体格を生かした声量と思いのほか繊細な旋律で心地よさを感じているうちに寝不足と疲労も相まってまぶたが重くなってしまった。
観客が次々と小銭を兜に投げ込んでいくのを見ながら、女が手にしたのはその辺の草花。

「んー、お花でいいかな。あとはプライスレスの笑顔!」

厚かましくも現金を払うのを避けるのは単に手持ちが少なくてもったいないから。
もっとも、今は先程までの労働の対価をもらったばかりで多少潤ってはいるが…。
と、財布に何となく手をやろうとした時、あるべき場所にあるはずのそれが見当たらないことに気付いた。
はっとして周囲を見回すと今まさに問題の財布を持って逃げようとする男の姿。

「それ私の!ドロボーーーー!!」

大声で叫んで追いかけようとする女。財布を持った男は女から逃げようと方向転換、慌てていて足元がお留守になったのか、兜から伸びたロープに足を引っ掛ける。
男性が観客に差し出していた兜は咄嗟に力を込めなければロープに引っ張られて中身をぶちまけるかもしれない。
いずれにしても転ぶことは免れた男は人込みをぬって向こうの路地をめがけて一直線に走り去ろうと。
女はそれを追いかけるつもりで。

Re: 出会いの辺りのロール - リッツ

2014/08/29 (Fri) 18:57:46


拍手や軽い歓声を受けながら、ロープに括り付けてある兜を差し出すと、
思い思いに金が飛んでくる。まあ一宿一飯程度の稼ぎというところだろうか。
歌える珍獣にしては悪くない反応がもらえたようだ。

そんな中近くの段差で舟漕いでた女性が、
はっとした感じで起きて近くに生えてた花を贈ってくれる。
その物言いが面白くて、思わず顔がにやける。

「ああ、確かに美人の笑顔にゃ値段付けれねえな。ありがとう!」

その台詞に回りも笑う。なかなかノリのいい奴らで、もう一度笑顔になる。
「あんたらいい奴だなぁ。なんだったら飲まないか?金ならここに……っと」

そこで上がる美人の叫び声。
美人から財布を盗んだ男が俺のロープに引っかかったので、
転ばせようと力をこめるが、たたらを踏んでそのまま走り去ろうとする。

「……っと、野暮用だな。この荷物見といてくれ」

観客に適当に言いながらその男の背中を追う。
荷物の心配はほとんどしていない。
この街に着いたばかりで食料や水が少ない分いくらか軽くなっているが、それでも大人二人分程度の重さがある。
なにせ、鋼の鎧が括り付けてあるぐらいだ。
その鎧も荷物も思い切り使い古された品だし、ぶっちゃけ金目のものはほとんど無い。
それこそ今追い掛けてるスリの男のように、集まってた奴らの財布を狙った方がマシだ。

追い付けない心配は無い。
何気なく縛っていたロープには針金が入っている。鎧を着た俺でも吊るせる様に頑丈なのだ。
そんなものに足を引っ掻けたのだから、本来の逃げ足には到底及ばないだろう。
遠距離走る事になるなら問題無い。
騎士とは言え平民出の俺は、徒歩での行軍が基本だったし、今は鎧も着ていない。

「アンタもどうだい?スリ捕まえた後一杯。この賑やかさに乾杯ってな」
不器用にウインクしつつ、共に駆け出す。
……スリに少しだけ感謝しよう。
いい女と知り合えるいい機会を作ってもらえたと。

Re: 出会いの辺りのロール - ロシオ

2014/08/31 (Sun) 10:55:11

「美人だってえ!お兄さん分かってるじゃん!
 お花もうひとつつけちゃう!」

気前よく、けれどあくまで懐の痛まないサービスを追加しながらも、周囲の和やかな雰囲気に女の顔も綻んで。
けれどそれが自分の大声で中断されれば、こののほほんとした男性の行動はびっくりする程速かった。
泥棒がロープに足をかけたのを見るやそれを転ばせようと試み、荷物を任せて気付いたら自分の横を走っている。
全力疾走…ではないだろう、軽口を叩きながらのウォーミングアップに見える。
他の動作とは裏腹にぎこちなさを含んだウインクには、
言動がナンパな割には意外と女性に慣れていないのかな、という気もしたが。
ひょっとして無理してる?というのは流石に考えすぎか。

そうこうしてるうちに前方を走る泥棒が角を曲がろうとしてよろめいた。
どうやらロープを引っかけた際に足を痛めたらしい、見た目よりもはるかにゴツイ代物のようだ。

「返しなさーーーーい!!」

きいーー!と子猿さながらの声を上げて女は目標の背後から跳びかかろうと。
実際は男性さえその気なら彼の方が遥かに速く目標に到達することは可能だろう。

「賛成!でも私、飲むより食べる方がいい。あんまり高くない所なら喜んで!」

そんな返事をしながら背後からは騒ぎを知った自警団の足音が聞こえてきた。
財布を取り返した後の泥棒の処遇は彼等に任せることにしよう。

Re: 出会いの辺りのロール - リッツ

2014/09/01 (Mon) 19:37:52

美人と言われて怒る女はそう居ない。花をくれた女性も更に嬉しそうに笑顔を振り撒いてくれる。
この笑顔ってのはもらう方もその回りも和やかになる。

そんな中で盗みを働くとは無粋な奴だと思うが、粋なスリってのもなんだかな、って感じだ。
横を走る女性も中々の足を持っているようで、しっかり付いてくる。
ほんの僅かだけどこちらを気遣う様な表情が見えた気がしたが、角を曲がろうとしているスリに向かって声を張り上げる。

その声と足の痛みからか、スリの動きが鈍る。
「チャーンス、ってなぁ!」
飛び掛かろうとしてくれたのも良かった。
そのお陰でこちらではなく、女性の方に気を取られてくれた。あるいは図体のデカイ俺は動きが鈍かろう、と思ったのかもしれない。

一気に間合いを詰め、首に腕を回す。
首を腕に引っ掛けながらダイブ。
首と身体に強い衝撃を受けて情けない声を上げるスリ。

呻いているそいつの腕関節を締め上げつつ、身体の中心であるへそを地面に押し付けるように体重を掛ける。
そうするといくら足掻こうとしても身動き取れなくなるのだ。

「ま、その辺りは他の観客もいたし、それによってだな。どっちにしろ、酒は楽しく無いとな!」
駆け寄りながら快諾してくれる女性に笑いかけながら応える。

「ああ、せっかくだからお前、有り金まとめておいてけよ。悪いことして手にした金なんて持つもんじゃないって」
どっちが悪党なのやら、スリの金をふんだくろうとする顔に傷のある男。その傷や身体の大きさ、はっきりした声。
どれもスリが抵抗力を奪うには十分なもので、ちゃっかり有り金を頂いた位に自警団がやってくる。

後の仕事は任せるとして、女性に財布を返しつつ元いた広場へ戻る。
言った通りに観客が残っていたら、隣の女性も引っくるめた宴会。
居なくても女性は食事に付き合ってくれるらしいから、久し振りに楽しい食事になるだろう。

Re: 出会いの辺りのロール - ロシオ

2014/09/04 (Thu) 08:28:30

タックルから身動きを封じるまで、男性の手際は鮮やかだった。
結果として此方が注意を引き、その隙を突いた形であっという間に泥棒をねじ伏せる。
自警団が追いつく前にさっさと金品を巻き上げる手口も慣れたもの。
財布を受け取りながら、成程これならそれほど良心も痛まないし金儲けの一つのやり方かしらと女は変な感心をする。

広場に戻れば男性はヒーロー扱い、早速それぞれが適当な酒を持ち寄って宴会が始まった。
季節柄収穫祭が近いのもあるかもしれない、広場は今度は宴目当ての人が集まり更に賑やかな様相となっている。
女は屋台で串焼きとビールを一杯購入し、先程の男性を探して差し出した。

「これ、お財布のお礼。
 こういうお礼はちゃんとしとかないとバチが当たるから!
 それにしてもお兄さん強いんだね、何かやってたの?」

と、そこで中年男性が近付いてきた。身なりからして各地を旅する行商人のようだ。
茶色の髪の男性に機嫌良く酒を注いだ後、何かを思い出すようにまじまじと顔を見て。

「兄ちゃん、どこぞの騎士様じゃなかったかあ?
 こんなにリュートの上手い騎士様はなかなかいないだろう!
 あのでっかい盾はどうしたんだい?」

先程泥棒から有り金を奪ったことと、騎士と言うお固いイメージの職業が咄嗟に結び付かず女は不思議そうな顔をしてその会話に耳を傾ける。
自分の質問と微妙に被る内容なだけに男性がどう答えるかを見守って。

Re: 出会いの辺りのロール - リッツ

2014/09/05 (Fri) 14:53:40

横にいた女性が感心したような声を上げてくれていい気分。
スリから金をふんだくるってのはやりすぎたかな、と思ったけど、それにも感心してたようで、引かれてない事にホッとする。

広場に戻ると歓声が上がってビックリしたが、荷物を見てくれてた奴に礼を言った後、スリからふんだくった分を兜に入れる。

「さあ、言ったとおり俺もおごらせてもらうぜ。兜に入ってる金は好きに使ってくれ!」
もう一度歓声が上がり、この場で宴会が始まる。

適当に歌いながら、宴会を楽しんでるとさっきの女性がビールと串焼きを持ってきてくれる。
それを笑顔で受け取り、串焼きをかじる。

「うん、うまいな。ありがとう!
 いやぁ、冒険とかしてたからなあ。ほら、吟遊詩人とかは色々見て回る必要あるしな」

よし、この子の名前を聞こう。そう思って口を開こうとした時に、行商人が近付いてくる。続いて行商人からの爆弾発言。

ぶぼぁっ!と盛大にビールを噴く。
首が軋んでるかのような動きでゆっくり行商人を見つつ。

「ヒトチガイジャナイデスカ?」
何も聞いてない人が聞いても分かるぐらい棒読みで、一発でウソと分かるような言葉がたどたどしく出てくる。

色々あった。守れなかった。騎士の忠義とは何だ。
そういうものが重なり、守る者としての象徴と思っていた盾を捨てた。騎士の紋章を削り取った。

それが良いか悪いかも分からないまま、こうして歌を奏でて旅をしている。
……あの人に届くかもしれない、と続けている歌がこんな所で知らないおっさんに届くとは思わなかったが。
いかにもウソです、と宣言したかのようなセリフを取り繕うため、横にいた子には苦味の混じった笑みを向ける。

Re: 出会いの辺りのロール - ロシオ

2014/09/18 (Thu) 11:17:45

行商人からの問いかけに明らかに動揺した男性は、苦し紛れと一目で分かるようなとぼけ方をしている。
吹き出されたビールをすんでの所で避けた女がまず考えたのは此方を見る男性の態度が『フリ』ではないかと。
そうであればここは突っ込む所だろう、そう思って男性の背中をバシンと叩く。

「まーたまた!!本当なんでしょ!!」

「ちなみにどこの?おっきいとこ?」と本当のことを言いたがらない様子の男性ではなく行商人に女は尋ねる。
他意は無くただの好奇心と話の流れだったが。

「ほら、あの貴族連合だよ」

行商人の答えに女の顔色が変わり、これまでの態度とは打って変わって眉をひそめ胡散臭げに男性を見やる。

「…マジで?
 あそこ金持ちの変態ばっかいるんでしょ?ヤバい噂いっぱいあるじゃん。
 ルスがおかしくなったのも、治安が悪くなったのも、昼間から魔物まで現れるのも
 裏で糸引いてるって噂だし。
 もっともそれはルスだけの話じゃないけど、それもカモフラージュって…」

そこまで言って女は気付いたように調子を意識的に戻して。

「…私、ルスから来たんだ。
 いくら貴族連合の人だからって、今ここにいるお兄さんが悪いわけじゃないよね、ごめん。
 ひょっとしたら事情があるのかもしれないしね!」

人違いという男性の言葉を女は最後まで信じることなく締めくくった。
雰囲気を変えようと「変な空気にしちゃったね、お詫びに飲み物取ってくる」と離れようとした時。

遠くから悲鳴と怒声。
何かとそちらを向けば大通りを一直線に馬で駆けてくるのは自警団の一人か。

「化け物が来るぞーーー!!
 すぐ向こうまで来ているぞーーー!!」

周囲に緊張が走った。

「戦える奴は前へーーー!!
 そうでない奴は逃げろーーー!!
 ここは人が集まってるな、丁度良かった、すぐに皆に知らせてくれ!!」

Re: 出会いの辺りのロール - リッツ

2014/09/19 (Fri) 17:14:34

笑顔で背中を叩く女性は……こっちがボケたと思ったようだった!
行商の不意打ちで思いっきり素が出てたんだけど、ボケと思われたのならかえって好都合かもしれない。
噴いたビールを拭きながら言葉を選んでいると、行商のヤツが正直に答えて、女性の顔に影が差す。

――貴族連合。
その名の通り、貴族だけが集まって作られている連合だ。
『王は既に王に在らず』
そう宣言して、一部の貴族が集まり『王の居ない国』を作ろうとした。

統治力を失った王を捨て諸外国に対抗する力を、と言うのが始まりらしいが、
結局の所その貴族連中たちも一枚板にならず、俺のいた国の混乱させてる大きな原因になっている。
王を否定すると言うのは、他の国の王からしても
「いつ自分が否定されるか」
と不安になり、その連合を潰そうとする動きが出てきている。

内憂外患。俺のいた国を一言で表現するとこれになる。


「いやぁ、俺も十分悪いヤツさ」
一向に信じていない……実際嘘だから見抜かれている、
という方が正しいかもしれないが、女性の言葉には苦笑いで答える。

この女性が言うように金持ちの変態とかも実際居て、俺はその変態から守る事が出来なかったのだ。
さっきみたいな不意打ちじゃなければ、あの時の我慢のおかげで顔に出すことはない。
気ぃ使わせちまったかな、と離れようとする女性を見ながら思っていたら、
遠くから悲鳴やら怒声やらが聞こえてくる。

馬に乗ってきた男の声に辺りが固まる。
出番だな。だが、この場で今の台詞はまずい。
場が大きく混乱してしまうかもしれないからだ。

それを鎮めるために、まずは派手にリュートをかき鳴らす。
この広場全体に響くぐらい大きく。
少しでも耳に留め、聞いてくれればこちらのもの。
テンポを少しずつ抑えて、こちらに目を向けられたらリュートの代わりに槍を取る。

「どーやら賑やかなお客さんらしいけど、心配するこたぁない。
 アンタらを守る為にそっちの馬の人も、俺も居る。
 それに、アンタらのやる事……連絡だって大切だ。
 俺らがその化け物を食い止めっから、アンタはこの街を頼んだぜ」

槍を片手で高く掲げて笑顔を見せる。
槍には相変わらず「お役に立ちます、あなたのリック!」が付いているが、
軽く2m超の槍を振るうと旗印が宙に舞う。
ぶん、と重い音と共に槍を回して、矛先の逆側で旗印を捕らえ、もう一度くるりと回して地面を叩く。

「な?まぁ、頼りにしてくれよ。この図体分の働きはすっからさ。
 おねーさん、色々あんがとな。そっちも気ぃ付けて」

こんな状況下にも拘らず、いかつい顔いっぱいに笑顔を湛えながら頭をぽんとなでる。
鎧が括り付けられていて重さにして大人二人分ぐらいある鎧を肩に担いで、馬に乗った男に付いていく。

……悲鳴も聞こえてるって事は、かなり近いのかもしれない。

Re: 出会いの辺りのロール - ロシオ

2014/09/22 (Mon) 10:10:02

「ふーん…?」

悪い奴、との返事に女は曖昧に頷いた。
事情をうかがい知ることはできないが、男性の態度から詮索無用であることは分かった。
そうして新たに起こったことに頭を切り替える。

男性の大声と奏でられた楽器の音で一度は浮足立った広場の人々が冷静さを取り戻す。
屈強な者でしか扱えないような槍とその槍裁き、それに掲げられた明るい売り文句のミスマッチぶりがこんな状況であるにも関わらず小さな笑いを誘い、それが各々の精神の余裕を誘った。
非常事態でパニックに陥るという危険を避けることのできた者は次々と安全な場所へと逃げ出し、また腕に覚えのある者は戦いへと名乗りを上げる。

男性を始めとした戦闘組に現在分かっていることが伝えられた。
突然大通りに振って沸いてきたことから召喚魔法らしい。
飛竜に乗った亡霊がそれを行ったという証言がある。亡霊の行方は捜索中。
確認されたのは武装したオーク十数体、リザードマンやミノタウロス数体、他にもいるかもしれないので見かけたら報告してほしい。
今の所連中は屋内には興味がないらしく、屋外で目についた者から襲っている。
女性が狙われやすい、等など。

男性が悲鳴の先に向かえば既に先発隊が交戦中で、男性の音色と所作に勇気づけられた者たちの加勢によって早くも怪物どもを追い詰めにかかっている。
ただ、そこが前線のようで通りの先にはまだ無傷の怪物が周囲を荒らしているかもしれない。
と、囲みを抜けた一匹の手負いのミノタウロスが逃げ出そうと駆け出した。
慌てているようで意図せずに男性の方へと向かい、男性に気付けば薙ぎ払おうと拳を振り上げる。

一方頭を撫でられた女はそのまま男性を見送った。
人気のなくなる広場に取り残される形でさて自分はどうしようかと考える。
流石に自分が剣を持てば逆に足手まといになることくらいは分かるが、かと言って何もしないのも寝覚めが悪い。
前線から少し離れながら、逃げ遅れた人がいないか見て回ることにしようと女も走り出す。

Re: 出会いの辺りのロール - リッツ

2014/09/26 (Fri) 17:06:11

広場に集まっていた奴らは落ち着きを取り戻し、女子供はしっかり逃げて、男たちは……思ったより戦闘に参加することになったようだ。
話をしていた女性は……広場に残っていたが、おそらく逃げるだろうから一応安心する。
ただ、名前が聞けなかったのが残念だ。


鎧を装着しながら状況を聞く。
状況は思った以上に厄介だ。今の所は押しているが、あっという間にひっくり返されてもおかしくない。

まず、オークたち。
これは豚頭の魔物で数まとまってもさして脅威ではないが、豚だけあって鼻が利く。
屋外に出ている女が居たらたちどころに見つかってしまうだろう。

リザードマンはオークたちよりは手練が多いが、それ以上に厄介なのはその鱗だ。
ちょっとした武器では弾かれる事もあるが、ここの街の奴らは戦いなれているのかうまく弱点を突いている。

ミノタウロスは牛の獣人でかなりデカイ。
武器を持ってないのは幸運だった。武器があるとその身体も相まって被害が出るのは免れなかっただろう。

……特に厄介なのは飛竜と亡霊だ。
騎乗されてる竜って事だから、格の低い竜であることを祈るしかない。
年を重ねた竜は魔法すら使う。炎の吐息やその鱗だけでも厳しいのに、だ。
それに空を飛んでいるから、まずは叩き落してもらわないとそもそも勝負にならない。
地面に叩き落してからが勝負だが”竜狩人”なんていう称号があるように、かなり厳しいことになるだろう。

亡霊の方はそもそも身体が無い。
身体が無いと当然槍が刺さらない。
銀製の武器や聖別された武器なら別だが、あいにくそんなものは持っていない。
聖別されたものは現実的ではないので、銀製の武器となるが、普通の武器としては使えない。
魔法の銀とも呼ばれるミスリル製は高くて手が出ない。
ないない付くしで申し訳ないが仕方が無い。
更に、この亡霊が魔物を召喚したとなると、コイツをどうにかしないと消耗戦になるだけだ。

そう考えてるうちに鎧の装着は終えて、改めて前線を見ると本当にいい調子で進んでいる。
囲みを抜け出してきたミノタウロスも手負いだ。
俺が立ち塞がると、拳を振り上げるが大振りすぎる。
その拳を避けながら槍を繰り出す。一撃で沈めて歓声が上がる。
交差法だとかカウンターとか言われている方法で、相手の力を利用したからこそ出来た技だ。

「いよっし!いい調子だな。でも、まだまだ来るかも知れないから気ぃつけていくぞ!
 ああ、あとクロスボウとかあると便利だな。誰か手配しといてくれ。
 ついでに思いっきり強い弓かクロスボウがあれば俺が使うからそれも頼む。
 飛竜たちがまだ見えてないからまだまだ序盤だ、気楽にいこうぜ!」

空を飛んでて、しかも召喚してくるとか最悪じゃねえか。次どこから来るか分からない。
下手したら逃げた先に召喚されるかもしれない……が。
そんな事を言って不安にさせることは無い。

もう一度さっき別れた女性の顔が浮かぶ。
袖触れ合うのも多少の縁、って言う言葉もあるし心配しても罰は当たらないだろう。
女性を守る、と言うと真っ先に浮かぶのは別の女性で、俺は守ることが出来なかった。

「でも、今度はまとめて守ってみせる」
小さく呟き槍を構える。
戦いは始まったばかりだ。

Re: 出会いの辺りのロール - エルフリーデ

2014/09/30 (Tue) 14:30:38

やはり私は中途半端だ。

はるか上空から人々が逃げていくのを見ながらつぶやく。
覚悟を決めた筈なのに、ここに来てなお迷いが生じている。
魔物の群れを街中には落せても、直接人の上には落とせていないこともその一つだ。
その迷いは『作業効率』を著しく低下させている。
ようやく負のエネルギーが多少発生したとしても、回収できた所で今度は強すぎる酒のようになかなか喉を通らない。
私自身がそれらを糧としてまだ受け入れ切れないからだ。

更に時間が経つにつれて抵抗を試みる人々が組織され、動きがよくなっているのが分かる。
あちこちから集まってきているようだから、それなりのつわものもいるのかもしれない。
怪物も彼等が把握しているよりも実際はずっと多く投入しているが、広場のあった方から来た一団が前線に到達してからは完全に向こうのペースだ。
ポピュラーな魔物であることを差し引いても、種族別に、ひとつひとつ、丁寧で隙の無い対処がされているようだ。
その場面を直接見た訳ではないが、召喚した魔物たちがテンポよく消されていっているからそういうことなのだろう。
多少傷付いてもまだ余力のあった筈のミノタウロスも一瞬で潰されてしまった。

大きく旋回し高度を下げると丁度逃げ遅れた婦女子の一団が護衛されながら避難していくのが見えた。
前線となっている場所…件の広場の戦士たちが参加している所からは少し離れた場所だ。

どうする、と思った次の瞬間。
身体中が破裂するような衝撃に見舞われる。
弓か魔法で攻撃された…?
試してはいないが肉体ではない体、傷付けるには特殊な手段が必要な筈だが。
状況が把握できないまま咄嗟に落下こそ免れたものの、飛竜の背に身を預けてわき腹を蹴り加速して高い所へと逃げる。
そこで自分にも、念の為確認した飛竜にも外的な傷はないことを確認すれば、あと思い当たるのはひとつしかない。

私の本体とも言うべき、体が消滅した。

魔剣で止めを刺されたのだろう。
ユスティーナめ。

いよいよ後がなくなった。
避難先も抵抗が激しくなっている。狙うなら今そこにいる婦女子の一団。
警戒すべきは近くにいる前線部隊、特に広場の一団の救助。
ただやみくもに投入するだけでは蹴散らされる、それならば。

残りの召喚スクロールを確認する。
オーク10体が2枚、リザードマン3体とミノタウロス1体が一枚ずつ。
オークの一枚を除き召喚時間の設定を、これ自体も驚きだが無期限から思い切って15分程度に書き変え、浮いた魔力を一体一体のステータス全般強化に充てる。
手を入れない方はフェイクというか、先に出すことでその次に出す強化体のカモフラージュとする。
まずはこれまでと同じオーク10体の方を出して、戦士たちの注意を引く。
救助に向かうとしても、オーク10体程度ならばと侮って前線から多すぎる人数を向かわせないことも期待して。

オークで彼等の気を逸らしている間に私が使うのが小さなビン詰めの黒いパウダー。
周囲を闇に属する者のフィールドへと変える。
ユーリの魔眼がなくてはこんなものは作れないから、これも事前に準備しておいた品物だ。
低級怪物にどこまで効果があるかは分からないが、むしろ戦士たちの間に神々の祝福や加護を行う者がいればそれを弱体化することと、その後で私が使う闇魔法の強化が狙い。
上空からこれをまく。

次は「ダークネス」のスクロール。
先のパウダーで強化されるであろう「暗闇」の魔法で一時的に光のない世界とする。
範囲を周囲一帯とした為効果にはムラがあるだろうし、漆黒の闇の効果はもって数十秒、その後は薄暗がり程度か。
戦士たちの目隠しをしている間に、本命である強化怪物達を至近距離からまとめて呼び出す。
暗闇の中での敵の出現で可能ならばパニックを起こさせ、また同士討ちの危険を生じさせて彼等の戦力を削ぐ。
強化リザードマンと強化ミノタウロスに暴れさせた上で強化オークはその嗅覚で多少視界が悪くても女性たちを狙える。
戦士たちの足並みが乱れている間に…嫌な計算だが、女性は捕まえてしまえば数分あれば一通りのコトに及べるだろう。
この飛竜は飛翔力と小回りを重視したタイプで際立った戦闘能力はない。
撃ち落とされるのを避けながらこれらを手際よくやらねばならない。

男で幸せになれなかった頭のおかしい魔女の亡霊、そんな流言は適当にまいておいた。
では悪行の再開だ。

Re: 出会いの辺りのロール - ロシオ

2014/09/30 (Tue) 14:37:46

「うっわ、あれ、やばくない?」

パーンと稲妻のような音がしてその方向へ目をやれば屋根の向こうで空間が縦に裂け、そこからオークが次々と飛び出してくる。
同時に悲鳴が上がった。
まだ逃げていない人がいるのだ。
女は駆け出して現場へ急行する。

見ればどこか離れでお茶会でもしていたのだろうか、若い女性が10人かそこら。
護衛はたまたま見回っていて彼女らを見付けたのか、自警団員が二人きり。
彼女らを守りながら避難するのは至難の業だろう。

「あっち!!あっち!!すっごく強いお兄さんたちが向こうに行ったから!!
 あっちに合流して!!
 大丈夫!!きっと助けてくれるから!!」

あのリュートのお兄さんは経歴は結局イマイチはっきりしなかったけれど、いい人で腕が立つことは間違いない。
のぼりに『お役に立ちます』とまで書いてあったことも合わせて思い出しながら女は身ぶりで一団を急かす。
そうして女はわざとらしくピョンピョン飛び跳ねながらオークたちに向かって叫んだ。

「こっちだ!化け物!
 こっこまで、おいでーー!!
 べろべろばーーー!!」

自分ながら低俗な挑発だと女は思ったが効果はそれなりにあったらしい。
此方に気付いたオークどもが一斉に向かってくる。追いかけっこだ。

「たーすーけーてーー!!」

商店街の武器屋から提供を受けた男性達が召喚とこの騒ぎに気付けば、程無くして助けを求める一団と道の向こうから土煙を上げてオークの群れを引き連れて走ってくる女の姿に気付くに違いない。
一方で上空からは静かに風に紛れてパウダーが流れる。
飛竜の女が一周すれば今度は暗闇と強化怪物が降ってくることだろう。

Re: 出会いの辺りのロール - リッツ

2014/10/16 (Thu) 15:09:36

俺の不安とは裏腹に、状況は良くなっている。
沸いて出てくる魔物たちは順調に打ち倒すことも出来たし、
武器屋からクロスボウが届いたら更に殲滅速度が上がった。

このクロスボウって言うのはお手軽で強い武器なのだ。
普通の弓の様に訓練などは必要なく、引き金を引くだけで真っ直ぐ飛ぶ。
矢を装填するのに少々時間が掛かるが、幸い人手はある。
戦いに慣れているだろう冒険者や自警団の奴らが足止めと防衛。

集まってくれた奴らの中で戦いに慣れてないが力はある奴らに、矢の装填を任せる。
戦いに慣れてなくて力も無い奴らには討ち漏らした敵を倒してもらう。
撃つ時は誤射が怖いので、基本構えてるだけで良いとは言ってあるが、ミノタウロスは身体が大きいのでいい的になってくれた。

気付いたらすっかり仕切っていたが、文句も言わずにうまくやってくれている。
幸いにして纏めて敵が来ると言う事が無いのが不安だったが、
敵の召喚師が遊んでるのか、そのようなことも無かった。

その場に居た魔物を一通り倒して、救護者捜索をする事になった。
これはこの街に詳しい自警団が中心になって動いてもらう事になった。
バラバラに動かれて気付かぬ間に包囲されると言うことがないように、最低二人で動いてもらっている。
俺や他の冒険者は広場で待機。ここを中心に広がっているから、どこから来てもすぐ対応できるからだ。

そんな待ち時間の間に敵召喚師である亡霊についての情報が入ってくる。
曰く、男に酷い目に合わされ幸せになれなかった女の亡霊で、
生きている女が妬ましいがため中心に狙うだとか。

……どうしても、あの人の事を思い出してしまう。
彼女は「良くして貰っているし大丈夫」とか言っていたが、
それが俺を心配させないための嘘だったと言うのは嫌でも耳に入っていた。

どちらにしろ、彼女は解放されたのだから……、
きっと何処かで幸せに暮らしているはずだ。
思考の海に沈みそうな時に声が上がる。

「飛竜発見!」
その言葉に慌ててクロスボウを撃つ奴もいるが、射程範囲外だ。
それに、すぐ急上昇して行った。

気付けば俺は駆け出していた。
それに合わせて人が動こうとする。
「いや、全員はまずい。なぁに、あんなヤバいのと無理にやりあったりしねぇし大丈夫だ」

反応の早かった数人を連れて走り出す。
すぐに自警団の二人と10人ほどの女性わ見付ける事が出来た。

「被害報告!」
つい昔の癖が出たが、突っ込む奴は当然居ない。自分としては恥ずかしいが、端から見たら頼れる騎士様と言ったところか。
だが、自警団の奴らが少し口ごもる。

「何だぁ?」
今度は軽い口調で聞き直す。
しっかりフレンドリーに出来た自信があったが、無意味だった。自警団の奴らが答える前に解答が走って来ている。
広場で話してた子が先頭で、後ろにはオークたちを引き連れている。
わざとらしい悲鳴は、敵を引き付け、俺らを呼ぶ為だろう。


「この集団を見付けた時にオークに襲われましたが、女性が囮になって……」
「見りゃ分かるわ!自警団は俺と一緒に迎撃、誰かこのおねーちゃん達をつれて下がれ!」

そうしてる間にも広場で話してた女性とオークが迫ってくる。

「ナイスだねーちゃん!このまま避難所まで走れ!俺らはなるたけ時間稼ぐ!!」

既に走り回ったかもしれない彼女には酷な言葉かも知れないが、今は相手のオークの方が数も多い。
時間稼ぎが良いとこで、下手に撃退なんて色気を出して良いシーンではない。
常識的で囮になった女性も思いやっているが……。

結果だけを見て言うのなら、一緒走って逃げるべきだったのだ。
敵は召喚師で、竜に乗っていて、どこからでもやってこれるのだから。

オークとぶつかり合う瞬間、辺りが暗闇に覆われる。
それだけでも俺たちの動きを止めるのには十分だったが、背後で魔物の雄叫び。
俺らの後ろには勇敢な彼女が居て、その先には逃げてきた娘たちがいる。
少数で暗闇という状態で、挟み撃ちにされる。と思っていた。
だが、魔物たちは俺らではなく女たちの方へ向かうのは、暗闇の中でも分かった。

「前は任せた!俺が後ろ回る!」
ここでも俺は間違えた。少ない人数を更に分けてしまった。
倍近い数のオークと戦わせる羽目になってしまった。
更に、近くに居るオークに体当たりをかまして吹き飛ばすが、明らかに力が違う。
そして、明らかに動きが違う。今までのは暴れるのがメインで女を襲うと言うのは、副次的なもののように見えたが、
今目の前のオークは俺を狙うより女……勇敢なおねえちゃんやその先に居る女たちへ向かっている。

槍を投げ捨てる。ククリを手にする。
ぶつかりあったオークにもう一度体当たり。
相手は夜目が利くだろうが、こちらはまったく見えないのだ。
腰を沈め、敵の攻撃をくらいながらも、よろめいたオークの頭をつかむ。

「おおぉぉぉぉおっ!!」
殺気に満ちた雄叫びを無視する事は、よっぽど慣れてないと難しい。
雄叫びを上げながら、オークの首をかっ斬る。
素早くオークの両足を脇に抱える。

「おねーちゃん、姿勢を低くしろ!」
強い口調で言いながら、身体をぐるぐると回転させながら、敵の中へ進む。
オークの死体はその身体の重量がそのまま武器になり、足止めに来たリザードマンやミノタウロスは虚を突かれたのか弾き飛ぶ。

真の狙いは、目潰しと嗅覚潰しだ。
こっちを見ている魔物の目が潰れれば助かるし、飛び散る血に女の匂いが紛れれば時間稼ぎが出来るかもしれない。服が汚れてしまうかもしれないが、命には代えられない。

辺りが真っ暗闇になっていて、敵は相手のが多く、守る人数も多いと言う不利な状況。
更に、今までよりも明らかに能力が高い魔物たちが、邪魔する俺へ一斉に襲い掛かる。
リザードマンの尻尾で腕を叩かれオークの死体を取り落とす。
ミノタウロスのボディブローで鎧がひしゃげ、あばら骨がべきべきと折れ、近くの民家に吹き飛ばされる。

圧倒的不利な状況。

だからこそ叫ぶ。
「行けえっ!一本道だ、気合入れて走れ!!」
瓦礫になった家から身体を起こす。暗闇の魔法はほんの一時的なものだったらしい。
今はぼんやりと見える。放り投げた槍を手に取り、魔物を睨み付ける。

「おねーちゃんたちといちゃつく前に、俺の喧嘩買っていけ。お代はてめぇらの命だ……!」
オーク達も引き付けたかったが、あいにく残っているのはリザードマン3体とミノタウロス。
それでも1対4。

勝てるかどうか判らない。いや……。
守れないぐらいなら、死んだ方がよっぽどましだ。
血塗れの唾を吐きながら、守れなかったときの事を思い出す。
あんな思いは二度としたくない。

Re: 出会いの辺りのロール - エルフリーデ

2014/10/20 (Mon) 19:17:41

強化オークが倒された。
薄暗がりとなった空を旋回しながら召喚術のチェックしていた私は召喚中のスクロールからその存在を示す文言が消えたこと気付いた。
呼び出してからさほどの時間は経っておらず、しかもこの状況でだ。
個人戦だけでない、先程から様々な面で統率された勢いを感じる。
腕っ節のみならず指揮もとれる相当な猛者がいるようだ。

音を立てずに宙を滑りながらそっと下の様子を伺う。
夜目が利かないのは此方も同じ。
ユーリの魔眼があればとちらりと思ったが、仕方がない。
第一こんな使い方をすれば魔眼が泣くだろうから私の手を離れて良かったのだろう。
ああ、そうかと思った。
あの人がこの世からいなくなったことを受け入れられる理由があるとしたら、今の私を見せないで済むことだ。

そんなことを考えながら集中する…視覚よりもむしろ聴覚。
飛散している闇属性のパウダーで能力を意識的に上げる。集中時の聴覚は特に、日々あの人の奏でる音を聴く為に磨かれた…多少は自負がある。

悲鳴から女性たちが逃げているのが分かる。追っているのは足音と唸り声から残りの強化オーク。
それぞれ全部かどうかは分からないが、どちらもそれほど散らばっておらず、大体塊として移動しているようだ。
多少ドタバタしたようだが、この後特に邪魔が入らなければ体力的に考えて追いつくのも時間の問題だろう。

剣戟、戦闘。
此方は先に出したノーマルオークと、その対処をする戦士たち。
敵味方が入り乱れる混戦となっているようだが、オークの声がけしかけるような調子であるから優勢と思っているのだろう。
雰囲気では戦士たちの方が少なそうだ…分かりづらいが、10体残っている筈のオークの半分かそれ以下か。

強化オークやその前にミノタウロスを倒したのは誰だ?

そう言えば強化ミノタウロスと強化リザードマンが見当たらない。
先程何かが派手に壊れる音を聞いた…其方か。
向かうのではなく、避ける。
強化怪物を引きつけている強者がいるなら、危険を冒してまで対峙するのは私の目的ではない。
もっと言えば、戦い傷付けても殺すことは目的ではない。
主の言葉を思い出す。

――人の恨み憎しみを得る事が肝要だ。
――ならばすぐに殺してどうする?
――家畜の乳を絞らずして絞めるのと同じ事。

ひと際大きな悲鳴が上がり、衣服の裂ける音が混じる。
強化オークの先頭が女性に追いついたのだろう。
始まった、と思うと程無くして別の悲鳴が続く。
悲鳴は戦士たちにも届き、何が行われているかを察するには十分の筈。
私は上空から暗闇にぼんやり浮かぶ戦士たちの影のような姿を眺める。

――男が差し出されたのなら……そうだな。少々細工して戻すのも面白いかも知れんな。
――心を操る者や、身体を操る者。いくらでも探せば居るだろう。
――それを使い不和の種を巻き、恨みや憎しみを収穫するわけだ。

不和の種、か。
私は高度を落とし、戦いの様子をより近くで観察する。
なるべく弱そうな者、傷付いている者はいないか…。
私はオーク二体に挟まれて劣勢と見えた戦士の一人の傍へ、戦いに割り込むようにして飛竜を降り立たせた。
私は驚く戦士を見下ろすが、フードをかなり深く被っているから向こうから見えるのは幻術で歪んだ口元くらいだろう。

「お前」

腹の底から低い声を出し、口調は敢えて横柄に。
魔法で声音を変えるまではしていない。
顔を変えた分恨みの対象を『私』とするのにこれ以上ぶれるのを防ぐ為、そして私の声を知っていてかつそれを見抜くような人間はもういない為。

「助かる方法を教えてやる。
 この怪物どもは複雑な思考こそないが、敵味方の区別くらいはつく。
 お前たちが守っている女を犯せ。
 そうすればこの連中はお前を味方と認識して攻撃はしない」
 
 この暗がりだ。
 上手くやればお前だと分かりゃしない」

本人だけに伝えるような言い方だが周りには丸聞こえだろう。
それでいい、要は戦闘意欲を削いで可能なら女の恨みを上乗せしてくれればよいのだ。
私はそれだけ言い放つと再度空へ飛び立ち、下で繰り広げられる光景に注目し、耳を澄ませる。
召喚魔法の持続時間はまだ残っている。
それが尽きるまで、この混沌に身を置くつもりで。

Re: 出会いの辺りのロール - ロシオ

2014/10/20 (Mon) 19:19:33

「うわったっ…!ひいいい!!」

お役に立ちますという売り文句には嘘のなかった男性の「姿勢を低く」という指示に女は慌てて従う。
女のすぐ頭上を振り回されたオークの死体がぶおんという音と共に掠めていった。
遠心力で吹き飛んだオークの血が辺りに飛び散って凄まじい悪臭を放てば、
オークどもがまごまごしているのが分かった。
匂いだ、と気付けば早速両手をついて自分の体に塗りたくる。
こんな状況ではちょっとしたことでも何が生死を分けるか分からない、できることはやりたいと思ってのことだ。

やっつけてもらおうとオークを引き連れては来たものの、事態はそれほど甘くなかったと女は舌打ちする。
暗闇が落ちてからというもの、此方側がとてもやりづらそうにしているのは分かった。
それが、自分も含めて守られる立場の者が原因のひとつであることも。

先程までとは勝手が違うのか、頼れる男性が怪物どもに囲まれ、あろうことか吹き飛ばされる。
男性は一直線に走って逃げるよう叫んだが、この男性ですら手を焼く怪物たちをまだ疲労の残る足で振り切って逃げる自信はない。
けれど男性が戦いに集中する為にはこの場から去る方がいいに決まってる、そう思った矢先。

女性の声を聞いた。
例の亡霊だ、と思った。
聞けば戦士達を唆すような内容のことを言っている。
少し考えて女は男性が起き上がろうとしている崩れた家まで戻る。
ここまでは無事辿り着いたのはオークの血の匂いのお陰か。
追い込まれてなお怪物たちを威嚇している男性に小声で話しかける。

「お兄さん、こっちこっち!…って怪我したの!?大丈夫!?
 今の聞いた?寝返って女の人を襲えって…!
 だったらお兄さん、私を襲ってよ!
 そしたらあの怪物どもも油断したり背中向けたりするかもしれないじゃない?
 少なくとも一度に四体正面から相手するよりは楽になるんじゃないかと思うんだけど!」

女はそれだけ一気に言ってから慌てて付け加える。

「勿論ふりだけよ!ふりだけだからね!」

起死回生とはいかないが、男性を筆頭に皆が死力を尽くしているこの状況に対しできることは何かと女なりに考えたことだった。
最後はもごもごと口ごもるが女の作戦の概要は男性に伝わっただろうか。

Re: 出会いの辺りのロール - リッツ

2015/06/24 (Wed) 16:33:34

槍を掴んで瓦礫を除けて立ち上がる。
その直後、槍を落としてしまいそうな衝撃を受ける。

あの人の声が聞こえた。それも信じられない事を言っている。
聴力には自信がある。伊達に吟遊詩人を名乗ってるわけではない。
……それに、あの人の声を忘れるなど、どうして出来ようか。

甘く苦い思い出に耽る事が出来たのはほんの一瞬。
ここは戦場で、助けを求める人たちが居るのだ。

あの元気なおねーちゃんが駆け付けてくれる。
正直、全然大丈夫ではないがやせ我慢して顔に笑みを浮かべる。
それにこの子は名案を持ってきてくれた。

「おねーちゃんを襲うとか、中々魅力的な提案だな」
鎧の留め金を外す。ひん曲がった鎧が音を立てて転がる。
チュニックを脱ぐ。
有無を言わさずおねーちゃんに被せる様に着せる。

「アンタは今男だ。それで適当に襲え。髪を結わえておけば多少は誤魔化せるはずだ」
背中をぼんと押しつつ大声を上げる。

「前衛、目の前のを押してから下がって女の服を破け!抱えられるならそのまま広場の部隊と合流、『俺たちが人間だって事を見せてやれ!』」

半裸のまま槍を構え直して背中越しに
「この戦い、合流出来たら勝ちだ。任せたぜ、おねーちゃん」

はっきり不利だった最前線はあっという間に崩れる。
仲間が俺の隣を駆け抜けた、と同時に槍を横に突き両手で持った後、正面に凪ぎ払う。一瞬でも動きを止められれば上等。

「こっから先は通さねぇ、死んでもな。
 お客も増えたし、ド派手に行こうぜ牛男!そこのトカゲも面倒見てやんよぉ!!」

オークに押されつつ下がりながら啖呵を切る。

14対1。
勝つどころか、戦える人数差ではない。
それでも、か細くはあるがいくつか手は打ってみた。

一つ目は、この人数差と体格差だ。

オークたちが群がれば、妙に強いミノタウロスやリザードマンは手が出しにくい。
オークたちがどう動くかは判らないが、妙に強い奴らは俺を狙ってくるだろうと言う算段もある。
召喚獣だという噂だったから、きめ細やかに命令が必要だと思うが、召喚師は……彼女かもしれないそれは、今別の所に居る。

ようはオークたちを肉の壁として使うのだ。
間を縫って抜け出そうとする奴には、点での攻撃になる槍は有効だ。
相手が同士討ちしてくれる可能性もある。

もっとも、鎧は脱いでしまっているので、防御力はがた落ちだし、
肉の壁と言いながらも、しっかり攻撃してくるわけだから楽観視は出来ない。
楽観視どころか、マトモに現実を見ると絶望しかないからそれに縋るしかないってのが正直なところ。

鎧を脱がなければ良かったのでは?
なんてあの元気なおねーちゃんは言いそうだが、
あのおねーちゃんが最後の希望だったりする。

戦闘や戦争ってのは不思議なもので、圧倒的に人数が負けていても勝つことがある。
これは「士気」って言われる……まぁ、やる気や雰囲気ってのが分かりやすいか。
早い話が「負けそうな雰囲気になると負ける」って事だ。
特に今回みたいな十人を越えるぐらいになると、戦闘には参加していないけど敗走兵なんてのも出てくる。周りの負けの空気に飲まれてしまって戦えないのだ。

でも「士気」と言う意味だと、俺が一番下がっている。本当なら俺が動いて周りを盛り上げないといけないのだが……あの人と同じ声がこんな形で聞こえてきたから、とても集中なんてしていられない。

でも、ここでさっきのおねーちゃんの効果がある。
人間ってのは何処かの誰かの未来の為ってのよりも、
目の前に見える人の為ってのがわかりやすい。

今この戦いの焦点は
「他の男たちが女を襲うか」
この一点に掛かっている。誰かひとりでも襲えば終わりだ。
殺されずに済むと分かった男たちが、堰を切ったかのように無差別に襲い始める。
そうなると魔物の恐怖と男達の狂気は、流行り病のように街全体に広まってしまう。
その時俺が戦い続けたとしたら……下手すりゃ人間に殺される羽目になりそうだ。

……もしかしたらあの声は、人それぞれ違う声色に聞こえたのかも知れない。
俺の仕えてた人がこうなるなんて思えないし、魔法ならそういったことが出来そうな気がする。

そのぐらいあの召喚師の言葉は、甘い蜜に包まれた猛毒だ。
とても良く人間の弱みと欲望を突いてきている。
この甘言に乗れば、街は壊滅するだろう。

でも、ここでもおねーちゃんが鍵を握っている。
誰よりも早く女を襲う振りして逃げて見せれれば、男たちも踏み止まれるかも知れない。
襲わずに助かる方法を、恐怖や欲望に打ち勝つ方法を示す。
少しでも成功を手繰り寄せる為に、俺の服を着せた。周りに檄を飛ばした。
でも、ここまでしか出来ない。
いや……ひとつだけあるか。

「……もし、憎いなら。怨むなら俺だけにしてくれよ。
 身分違いだとか、騎士の忠義だとかに逃げて何も出来なかった俺だけに。
 もし、黄泉路が暗くて逝けないのなら俺を連れてけばいい。
 元より間違いで生き残ってるようなもんだ、気にするこたぁないさ」

もし、本当に彼女なら。
辛い過去、そして未来をも受け入れた彼女が化けたというのなら、元は俺の責任だ。
だが、彼女が他の奴に恨みを買う必要は無い。
その為にも、こっから先は通さねぇ。

Re: 出会いの辺りのロール - エルフリーデ

2015/07/02 (Thu) 13:00:35

それは本当に、ふと思ったことだった。
下で新たな混乱が始まるかどうか、それを待ちながら考えたこと。
本国への報告書をどうするか。
成果とされる被害状況については勿論だが、この街の戦力についても記載しなくてはいけない。
特に当初の想定より抵抗が大きかったことには詳細が必要だろう。
その戦力は自警団かそれとも――。

強者のいる気配はずっとあった。
直接対峙する危険を考慮して避けてはいたが、今後の為にも何者であるか位はやはり把握しておいた方がよい。

距離に気を付けながらその者のいる方向へ飛竜をゆっくりと旋回させる。
途中で足早に駆け抜ける小さな気配を感じたが、今はそれよりも此方を優先だ。
そう言えば何か話し声がしていたような気もする。
若い女の声で、何かに対して分かった、とは聞こえたような…。

暗闇は徐々に晴れてきている。
視界の先には槍を携え、複数の怪物どもと取っ組み合いになっている一人の男。
敵に囲まれた彼は一人きりで、押し寄せる十数体もの怪物を足止めしていた。
服装を見れば自警団かあるいは職業や出身地も分かるかと思ったが、何を考えているかその男は上半身裸。
ここから見える逞しく広い背中は傷だらけ。
古い傷、そしてそれに重なる新しい傷。
胸がざわざわするのを感じた。

正面に回るのは危険な気はするが…。
男は手当たり次第に怪物の相手をしており、此方を仰ぎ見る余裕はなさそうだけれど
手練であれば隙を突いて何を仕掛けてくるか分からない。
斜め上から回り込むようにして滑空し、今も全力でオークを打ちのめすその男の顔を確認すれば。

あれは…!!

息を飲んだ。同時に体が震える。

生きていた。
どうやってか、生きていた。
生存者ゼロと言われた苛烈な戦闘で。

驚愕の次にせり上がってきたのは強い自責の念。
あの時、夫であった人から『あいつが死んだ』と聞かされた。
『死体が届いているぞ、見るか?』と。
私は目の前が真っ暗になった気がした。
そして何もかもから逃げるように自室に飛び込んで、そして――。

目を見開いてここから覗ける彼の横顔を網膜に焼き付ける…やはり間違いない。

どうして私は自分の目で遺体を確認しなかったのだろう。
それは、見るのが怖かったから。
自分のせいで、命枯れるまで傷付けられた彼の体を見るのが。

だが結果として彼は生きている。
あの遺体が彼の機転であったのか、手違いであったのかは分からない。
いずれにしても私は向き合えなかったのだ。
彼の死と、それを導いた自分に。

そしてその延長として無意識のうちにも遠ざけていたことにも気付く。
この戦いでずっと指示を飛ばしていたのは彼本人であり、私はその声で彼だともっと早く気付けた筈だ。
けれど彼の声は聞こえなかった。
私が…聞こうとしなかったから。
彼が生きているかもしれない、その可能性すら排除するほどに
彼に関すること全てが自分の招いたどうしようもない結果に繋がるのが怖くて。

いつから私は耳をふさいでいたのだろう。
今この時だけではない、ひょっとしたら仕事で近辺を偵察していた時。
諸国を回った時。
買い物をした時、広場を歩いた時、誰かと擦れ違った時。
もしかしたら彼がいたかもしれないのに、私は自らそれに気付くことを拒否していたことすらあり得ると思うと愕然とする。

どの段階で彼が復帰したのかは分からないが、会いにきてくれなかったというのは筋違いだ。
生存が明るみに出ればまた追手がかかるかもしれない…
夫であった人が死ぬまで、どのくらいの時間身を隠し、不便と不自由を強いられただろうか。
そしてそれ以前に彼に与えられた仕打ち。
体の至る所にある古傷を改めて見る。
私が知っているものよりも、ずっとずっと多くなっていた。
致命傷に近かったのではないかという位大きなものもある。
これまで自分の傷にばかり気を取られていたけれど、彼の傷は本来私が負うべきだった傷なのだ…!

今流されている血。
私が傷付けた。
そうなるよう仕向けた。
彼は戦っている。
この悪しき亡霊と、それに召喚された魔物達と。

彼は相変わらずオークどもに囲まれている。
戦士としての腕も衰えておらずこの状況で互角以上だ。
けれど多勢に無勢、時間が経てば経つほど不利になるだろう。
それでも一縷の望みを繋ぎ、状況を跳ね返そうとできることを続けている。
この場に居合わせた不運も、一人残る不安も口にすることもなく。
変わっていない、真っすぐでひねくれのない、いとおしい魂。

彼は私のことをきっと覚えているだろう。
この私が…彼の前に現れた上で、彼を殺せば…。
その魂からはどんな憎しみと悲しみが手に入る?
それを主に献上すれば…主は喜んでくださるだろうか…?
どうせここまで堕ちた身だ、堕ちるならとことん――。

知らずに彼に近付いていた。
飛竜を上空からゆっくり円を描きながら下降させる。
彼の視界に入ろうとした瞬間、ぐっと歯を噛み締める。

できる訳がない!

そんなことできる訳がない…!!
例え国中の男の血を捧げても、あの人だけは、あの人だけは…!!

体勢を立て直そうと飛竜の腹を思い切り蹴り上げ、上昇しようとしたその時。
先程の若い女の声が響いた。

「撃てえええ―――!!!」

此方の指示が一瞬早く飛竜が急上昇する。
回転が加わり天地が把握できない。
空と地面が次々と入れ替わる視界の隅で、先程までいた空間に風を切って真っ直ぐに抜ける数十本の矢が見えた。

狙われていたのだ。
矢の飛び方からしてクロスボウか。それも、一斉に。

「第二弾準備…って、あああーー!!そっちは駄目!!
 お兄さんに当たっちゃうじゃない!!
 今は飛竜!!お兄さんに地上に集中してもらう為に!!

 お兄さーーん!!聞こえるーー!?
 今武器持った人たちがそっちに助けに向かってるから!!

 お兄さんの声、皆にちゃんと届いてるから大丈夫!!
 そう大丈夫!!
 お兄さんがそこまでやってくれてるんだもん!!
 あたしたちだって負けないから!!

 だから!!もうちょっと!!もうちょっとだけ…!!」

息を吸い込むような、間。

「頑張ってええええーーー!!!!!」

クロスボウの射程距離を抜けながら、
耳に入っていた筈なのにずっと拒否していた彼の声が今更のように脳裏に届く。
そう、聞こえていたのに、聞こえなかった声。

――行けえっ!
――走れ!
――俺の喧嘩を買っていけ!

皆を守りながら自分は残る、そんな台詞ばかりの懐かしい声。
変わっていない、優しく包み込んでくれるような声。

――俺たちが人間だってことを見せてやれ!

ああ、そうだ。
彼はいい意味で今でも『人』だ。

だからこそ。
私はもう彼に関わってはいけない。
工作の為に正体を明かさないという話ではなく、それ以前の問題だ。
本当に悪い存在になってしまった自分との繋がりのせいで、この期に及んで彼に迷惑をかけてはいけない。
いずれ互いの状況を話す機会がひょっとしたらあるにしても、それは今ではない。
これだけの騒ぎを引き起こした亡霊の知り合いであると思われれば、いらぬ疑いを呼んでしまうかもしれないから。

――もし黄泉路が暗くて逝けないなら、俺を連れていけばいい。

自分に向けられたと思われる言葉に心臓を打たれたような気がした。
彼には届かないと分かっていながら、返事をする。

大丈夫。
そう思ってくれる人がいるというただそれだけで、一人で行けるから。

私はずっと思い上がっていた。
夫であった人の誤解は解ける。
どんな状況でも私はやっていける。
私は耐えられる。
できもしないことをしようとして全て失敗した。

けれどそれらを中途半端だと思うことさえおこがましいと今は思う。
半端も何も、要するにそれだけしかできないのが…情けないけれど、私なのだから。

主にはそのまま報告しよう。
飛竜でそのまま空間の狭間を抜ける。
背後では召喚時間の切れた魔物たちがとっくに姿を消していることだろう。

Re: 出会いの辺りのロール - ロシオ

2015/07/02 (Thu) 13:05:55

「わーん!!お兄さんーー!!どうして死んじゃったのーー!!
 …って、え?死んでない?」

亡霊と怪物の去った街は徐々に落ち着きを取り戻しつつある。
被害は決して少なくはなかったが、怪物の出現場所と強度、数を考えれば最小限に抑えられたというのが一致した見解だった。
それに大きく貢献した男性は本日二度目の称賛と拍手喝さいを受けながら看護師の手当を受けている。
亡霊の捲いたパウダーの影響で神聖系魔法は今でも使えない状態だが、
あと数時間もすれば風に飛ばされて問題なくなるだろうと言われている。

女は手当の途中の男性の周りをウロウロしながら話しかけていた。

「…でね、お兄さんの言った通りに伝えて回ったんだよ。
 私は『現場』は見てないし、多分それで思いとどまった人もいたんじゃないかな。

 お兄さんが時間を稼いでくれたから、別の所にいた自警団の人たちが来てくれたんだ。
 クロスボウは…ごめん、お兄さんの名前、勝手に借りて皆に撃ってもらったんだよ。
 亡霊があんなに寄ってきたから、せめて飛竜だけでもやっつけるチャンスかと思って。
 外れちゃったけどね。でも驚かす位はできたかなあ…」

女はそこではっとして。

「あ、名前まだだったね。
 あたし、ロシオ。
 お兄さんみたいな人と知り合いになれたの、何ていうかすごく嬉しい。
 こんな強い人初めて見たよ!
 あんなに沢山の怪物に囲まれてたのに千切っては投げ千切っては投げって感じで…」

女の饒舌は続く。
少し気を付けて見れば、それが今更のように襲ってきた恐怖を誤魔化しているものと気付くかもしれない。
男性が承諾すれば女は男性を食事に誘い、気持ちが落ち着くまでしゃべりまくり、
時折男性の怪我と具合を気遣ってはまた話続けるだろう。
それがいつまで、どんな形となるのかはまた別の話ということで。

Re: 出会いの辺りのロール - リッツ

2015/07/27 (Mon) 13:04:35

魔物の怒号よりも、自分の呼吸と鼓動がうるさく聞こえる。
槍を振るう腕は鉛のように重く、槍も水の中で振るっているかのように遅く感じる。

1対14の戦い。いや、リザードマンとオークを倒したから1対12になっている。
が、鎧を着ていない状態ではオークの攻撃も馬鹿にできない。
普段なら鎧で防ぐが、今は全て槍で受けなくてはならない。

――槍を捨てれば楽になる
――どだい無理な話だったのだ

甘い敗北へ誘う声は俺自身の声。
少し槍を下ろすだけで、この苦痛からは逃れる事ができる。
それだけではない。

――彼女が化けて出てきたのなら。せめて共に逝くべきではないか?

矛先が下がる。あばら骨がへし折れる音が聞こえる。
身体がくの字に曲がる。
ここまでか。諦めた時に矢が飛んでくる。

「第二弾準備…って、あああーー!!そっちは駄目!!
 お兄さんに当たっちゃうじゃない!!」

俺がやられそうになるのを見て、数人が射撃してくれたらしい。
あのおねーちゃんの指示を無視して。
槍を支えにして体勢を立て直す。

「お兄さーーん!!聞こえるーー!?
 今武器持った人たちがそっちに助けに向かってるから!!

 お兄さんの声、皆にちゃんと届いてるから大丈夫!!
 そう大丈夫!!
 お兄さんがそこまでやってくれてるんだもん!!
 あたしたちだって負けないから!!

 だから!!もうちょっと!!もうちょっとだけ…!!」

ああ、とてもよく聞こえる。
おねーちゃんはマジ、勝利の女神だ。
あの子が一言発するたびに、腕に脚に力が戻ってくる。

「頑張ってええええーーー!!!!!」
「おぉおおおお!」
雄叫びと共に、今一度槍を振るう。勝利は目前だ。


……こうして、戦いは終わった。
最後まで戦えたわけではない。
おねーちゃんが呼んでくれた仲間が来た辺りで、俺は限界が来て意識を失ったのだ。

「わーん!!お兄さんーー!!どうして死んじゃったのーー!!
…って、え?死んでない?」

で、この台詞だ。
「わーん!!」
の辺りで意識を取り戻す事が出来た。

どうやらあの人のばら撒いた瘴気のせいで神聖魔法は使えないらしいが、
手厚い看護のおかげで起き上がる事もできそうだ。
起き上がると賞賛と拍手喝采を浴びて少し驚く。

ウロウロしているおねーちゃんの話をまとめると、
おねーちゃんがかなりうまくやってくれたようだ。
特にクロスボウを持ってきてくれたのは、大ファインプレイだ。
あれが無かったら、俺も犠牲者の一人に名を連ねてることになっただろう。

俺の名前をと言うのには感心するばかり。
あれやこれやと命令を飛ばしてた俺の名前を使うのは、おねーちゃんがそのまま言うより効果あっただろう。

彼女の名乗りの前の一言が気にはなった。
――亡霊が近付いて来ていたので……

やはりあの人だったのだろうか?

……いや、その事はあくまで俺だけの話だ。
やらなくてはならないことが目の前にある。

「……ロシオか、いい名前だな。
 俺の名前はこれだけ宣伝してるから今更だけど、リッツだ。よろしくな!
 っと、いやぁ頑張るもんだな、おねーちゃんから誘ってもらえるとは!
 となりゃぁ、善は急げだ」

デカイ手で軽く彼女の頭を撫でる。
そして、じいさんみたいに「どっこいしょ」と言う掛け声と共に立ち上がる。

まだ治療が……と止めてくるが片目を瞑りその言葉を押し止める。
自警団の長と軽く話をする。この場はうまく納めてくれるらしい。

なら俺はこのおねーちゃん、ロシオの面倒をみよう。

旅はしているようだが、先ほどの戦闘が心に傷跡を残しているかもしれない。
男なら、酒飲んで女とヤってで落ち着くだろうが……
あいにく女性はどうしたらいいか分からない。

だから彼女の誘いに乗る形で食事を一緒に食べるとしよう。
当然治療している奴らには止められるが、笑ってスルー。

「そんじゃ、いくか。
 いやいや、ロシオも大したもんだったぜ。
 俺の手が届かない所をフォローしてくれたっちゅうか」

酒を飲みつつ、肉を食う。無くなった血肉を取り戻すかのように。
ロシオの話に驚き、笑い、感謝する。

――黄泉路が暗くて逝けないなら……
そうは言ったが、今は少々未練が……告解したい事が出来てしまった。
彼女へ送る鎮魂歌はもう少し後になるだろう。

「いやいや、ちゃんと聞いてるぜ?
 この年で耳は遠くなってないから安心してくれ。
 そういやロシオは――」

でも、今はただただ、勝利と無事を祝うとしよう。

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