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納涼、鎮魂、そしてこれから - リッツ

2015/10/09 (Fri) 13:31:42

あの戦いから数日が経った。
傷は神聖魔法で治癒されて、しっかり宿で休息も取れた。
自警団の口利きもあったようで、俺とロシオは格安で泊まっている。
あ、いや。当然ながら部屋は別だ。

俺はその間酒場なり広場なりで歌い、路銀を稼いでいた。
これは路銀稼ぎだけではなく、情報収集も兼ねている。
人の噂は千里を走ると言う諺もあるように、人の多い所で話を聞けば、
悪い話は大抵耳にする事ができる。

……でも、ここまで悪い話を耳にするとは思わなかった。
食堂兼酒場で歌わせてもらっていた時に聞いたのは、俺の故郷である貴族連合に程近く、ロシオもやってきたと言うルスの陥落だ。

ルスと言うのはこの乱世にあって中立を保っていた国だ。
どこにも付かないし、固有の軍備を持っていない。
周りが空き巣強盗だらけの世の中で、こんな国が残っているのが不思議とされていたが、
中立かつ軍備を持たないと言う事で、外交の場として使われていたのだ。
そういう形にルスの女王が諸外国を動かしていたのだと思うが、それが崩壊した。

外交ってのは俺自身も詳しいわけではないが、
武力を使わない戦い、と言うのが分かりやすいかもしれない。
殴られたら痛いのは人も国も同じだから、そうならないように話をする。
上手くいかなかったり、それは脅迫だろう、って言うのも往々にしてあるが、
それでもまだ体裁が整っている。そういう、唯一人らしくする場が失われたのだ。

どこかの国が征服したとかいうのなら、まだ良かったのかも知れない。
ある種叩く相手が出来たという事で、そちらに目が向いただろう。

だが、今回はそうではない。
魔物に滅ぼされたのだ。そして女王の嘆きの声が、昼夜問わずルス中に響き渡っているのだとか。
そして、人々はルスを棄てた。

捨てる事の出来なかった者の行く末は二つ。死者として永遠の住民となるか、奴隷としてさらわれるか。
この短い期間で廃都と呼ばれるようになり、多くの難民が生まれた。

ルス女王の崩御。このたった一人の不幸が引き金でなんと多くの不幸が生み出される事か。
そして、難民と言う形でルスの国内だけではなく、各国に不幸がばら撒かれていっている。
顔見知りになった自警団の団長から、難民と町民のいざこざが起きている事も聞く事ができた。

「……」
とは言え、俺に出来ることは無い。
英雄と呼ばれるような力があるならば、件のルス女王の魂を慰め成仏させる、
なんて事も出来るのかもしれないが、手の届く所で精一杯。
……いや、過去にいたっては愛しの君と呼べる彼女すら救う事ができなかったのだ。

大きくため息を付く。
過去はそうだった、まったくもってその通り。でも、過去だけ見て暮らせるほど年は取っていない。

ちょっと気合い入れ直さないとな、そう思っていたらロシオがやってくる。
飯を食う場所は限られているし、会うのはそれほどおかしな話ではない。
あの食事の後も何度か俺の方から誘っているし。

「よぉ、ロシオ。ちょっとばかし付き合わないか?」
前置きもそこそこに、かねてから考えていた話を切り出す。

「この街から数日程度の所に精霊の集会所ってところがあるんだ。とんでもなくキレイらしいけど、俺も見たこと無いんだよな。
 良ければ一緒にどうだい?」

……うん、我ながら芸の無い誘い方と言うか、ぎこちないというか。
女性を誘うとかろくにした事が無いのだから仕方ないか。
数日の場所ってのもあるから、冒険とは言え数日女性と共に行動するのだから……
見様によっては旅行にさそうナンパ男と変わらない。
そう思うと照れてしまい、誤魔化すようにエールを注文して場を濁しながら返事を待とう。

Re: 納涼、鎮魂、そしてこれから - ロシオ

2015/10/15 (Thu) 14:07:39

「あ!リッツンだ!」

気分転換に何か美味しいものでも食べようかとその女の向かった先はここ数日ですっかり常連になった食堂兼酒場。
此方から探す必要もなく逆に見付けて声をかけてくれたのは少し前に会ったリッツという男性。
女の眼から見て、否誰の眼から見ても朗らかな雰囲気の人物で、今も知らない者ならもう何年もやっているお店の専属の歌い手かと思うくらい馴染んでいると女は思う。
その女が彼に声をかける。『リッツン』と呼ぶのはこれが初めてで、必要なら彼に説明をするつもり。
『リッツさん』では芸が無いからというだけの理由の単なる思い付きだが、響きの可愛らしさは彼の愛嬌のに通じるだろうし、『ツン』というのも槍で突いた擬音語のようでこの人に相応しく、なかなかよい呼称だと女は勝手に思っている。

女は男性を見て表情をたちまち輝かせる…その直前まで女の顔は曇りがちだった。
その理由は女が手にしていた号外にある。
それには女の故郷でもあるルスの崩壊とそれにまつわる一連の出来事が大衆向けの記事として記載されていた。
かの男性の集めた情報は既に女も聞いている、大体はそれを裏打ちするものであった。
男性の情報収集能力に舌を巻きつつも、女が眉をひそめたのはその後の追加記事である。

男性は己の情報を過信せず、これはあくまで例えば下級の騎士レベルが触れることのできる情報だと一歩引いた目で見ていた。
すなわち、事実はもっと別の次元にある可能性が高いと。
そしてよくわからない状況に対して取材や伝聞をまとめた結果であったこれまでの情報とは明らかに質の異なるものが記載されていた…『公式発表』である。それはまとめれば以下のようなもの。

『魔物に封鎖されていたルスの港および中央行路は
 貴族連合によって解放された。
 今後も連合が一切を管理する』

女は猛獣…とまではいかなくとも、動物の如く唸った。
海岸の深い地形を生かした巨大な港もそこから各地へ伸びる中央航路も女王の代に完成したばかり。
どちらもこの辺りでは類を見ないような交通の大動脈だ。
続く一文には、『利用料』として法外な金額が記載されていた。
ついでに言えば利用料には身の安全を保証する為の手数料も含まれているとのこと。
異国では最初から仕組まれた危険海域もあったという話も聞く、それに倣いでもしたのか本当はあんたたちがやったんじゃないのーー!?と往来で叫びたくなるのを女は抑えた。
その一方で思う。武力を持たぬというのはこういうことなのだ、と。
外交努力は当然必要、けれども最終的に暴力に出られたらやはり暴力で身を守るしかなかったのだ。
『中立』であるからこそ万一の時に助けてくれる国も存在しない…中立とはそういうこと。
それでも男性の話からも聞いたように、そのスタンスが在る意味外交のテーブルとしての役割を果たせているうちはよかった。
けれどそれがもう用済みになったのか、港と行路が完成したからか、女王がその役割からの脱却を試みて自国の軍隊を編成しようとしたからか、あるいはその全てか…その結果がこれだ。

先に聞いた通り魔物に滅ぼされたのか、それとも裏で引く糸があったのかは分からない。
どちらにしても…と、女は此方に来てから何かと世話を焼いてくれる自警団の団長や団員の人たちを思い出す。
先日の戦いでも目の当たりにした…自分たちの手で自分たちの町と生活を守る…何と理にかなっていることか。
一方ルスは、攻め込まれてから傭兵を探すつもりだったなんて笑い話にもならない話も聞こえてきたくらい。
これまではそれで良かったのだ、それだけ甘やかされてきたのだ…最後に、こんなにも簡単に搾取される為に!

ただ、貴族連合の悪業と足並みを揃えていた教会の方に別件で圧力がかかったらしく、その流れで不正に蓄積された財産は難民救済に充てられる予定、というのがせめてもの救いの記事だった。
女王のことはどうしようもないけれど、自警団の人を悩ませているいざこざもこれで多少は改善されるだろう。
あとは知り合いが路頭に迷っていないことを祈るばかりだ。

いずれにしてももうルスには戻れないだろうな、と女は思う。
元々各地をブラブラするつもりではいたけど、さあどうしようか…と思ってた女の答えが今目の前にある。
エールを待つ男性の隣に座り、号外をその辺に置いて足をぷらぷらさせなが話を聞き終えた女はうん、と頷いた。

「行く行く!すっごく面白そう!!
 正直、あの戦いの後も暗い話ばっかりでちょっと滅入ってたんだ」

なんやかんやでこの男性がこの期間メンタルフォローをしてくれていたことを女は忘れていない。

「いつ出発する?私はすぐでもいいよ、大した荷物ないし!…って
 数日の距離だっけ?街道…かな?それとも、途中に宿とかないとこ?
 この前道具屋でで見かけた『冒険初心者パック7日分』とか買ってきた方がいいかな…?
 いや、私、実は野宿するような旅ってしたことなくてさ」

そこで女ははたと気付く、ひょっとして野宿?この男の人と二人きりで?
女の思考に呼応した訳ではないが男性のらしからぬ様子に気付いて女は慌てる。

「ちょ、ちょっと!そこ、何で照れてるの!
 普通に行けばいいじゃん!フツーに!!ほら、エール来たよ!!」

日常的にフレンドリーなこの男性が、実は女性を誘うという行為自体には慣れていないらしいということに女は思い至らない。
店員に近かった女が代わりにエールを受け取って男性に差し出す。
此方も照れ隠しか女の動作はやや乱暴で、男性の鼻先へ唐突にジョッキを突き付けることになるだろう。

Re: 納涼、鎮魂、そしてこれから - リッツ

2015/10/23 (Fri) 16:15:34

声を掛けたのはこちらだが、
とても親しげに返事をしてくれた彼女を見て、笑顔になりつつも少し驚いた。
ガタイの良い俺への愛称にしては可愛らしすぎると思ったからだ。
席に着くまでに説明を聞いて納得する。語呂も良いし、槍に掛かっているとは思わなかった。

酒場のおっちゃんもテーブル席を空けてくれてくれて、そこに二人で座る。
極々当然のように、二人掛けの席を用意してくれている辺りも
ロシオが「すっかり馴染んでいる」と思う理由だろう。
二人で席へ座った時に置いた号外を見て、彼女が入ってくる時顔を曇らせていた理由が分かった。
ルス陥落と、その後が書かれているものだ。

軽食を頼んだ後、ほんのわずかに沈黙が訪れ、号外に付いて考える。

そもそも、以前から海路を望む声は多かった。馬車より多くの荷物を運べる海路は膨大な富を産み出すだろうと。
それが実現しなかった一因はルスにもある。
中立を保ちつつ兵を持たない、ある種戦場で裸で居るような振る舞いは、商人たちにとって容認出来ないリスクだったのだ。
しかしながらルスを通らずには海路として成り立たない。だから様々な国がルスを狙い牽制しあっていた。

立地という柱に、中立国という綱を張り、女王という棒を持って綱渡りしていた国、それがルスだ。
どれが一つでも欠けたら……末路は大道芸のそれよりも酷い。懸かっているのはそこに住む国民全てなのだから。
あの国は竜を神として崇めていたはずなので、教会が口を挟んできたのは色々勘ぐりたくなる。

冷たい水が出された時に、例の話を切り出す。幸いこの地域は水が豊富でこのように最初に出される。

「お、おう」
それなりに意識してしまっていたのが恥ずかしいぐらい、あっさり同意される。
次の台詞はエールの勢いでなんて思っていたのだが。

大した荷物が無いと言うのは引っ掛かったが……。
どうやら野営などの経験は無いようだ。これも不思議ではない。

繰り返しになるが近隣の国は治安が良くない。魔物よりも人間の方が恐ろしい事だって少なくない。
だから商人たちは集まり傭兵を雇う。
それに便乗する方が安全なので、旅人達も集まり商人に金を払う。その集まりは村が移動して居るような規模になる。
予想だがそれに便乗したのかもしれない。

一人旅なんてする輩はマトモなのがいない。
俺自身、行くとこへ行けば賞金首だ。死んでいる事になっているから大丈夫だと思うが。

一方でこのあたりは治安が良い。
そして、俺が話したような場所もある。
それもあって冒険者セットがあったのだろう。

「ああ、数日だが……七日セットは辞めとけ。三日セットのが良い」
ロシオの様子に調子を取り戻しながら答える。

「普通の七日セットだと保存食に飽きるんだ。スペシャル七日セットなら、保存の魔法が掛かってるんだけどな。それなりに割高だから……っとぉ!」
講釈垂れていたら、俺が照れてた理由が分かったようで、乱暴にエールを突き付けてくる。
ロシオが照れてたから、俺もまた照れが入ってきた。それをエールで流し込む。

「ぷはぁ、っとそうだな。普通に行くぞもちろん。
 でだ。旅を楽しむなら最初の方は普通を買っておいて、無くなったら保存食にするってのがいいんだ。運が良ければ途中で肉は確保できるしな」

保存食は魔法が使われているなら別だが、そうでない場合は味が限られる。
塩漬けが多いし、パンも堅く焼かれてスープが無いと辛くなる。
俺の場合は街に入れない事もあったので、釣りや狩り、食える山菜を覚える必要があった。
罠なんかも良い。寝る前に仕掛けて置けば、運が良けりゃ朝には新鮮な食品が手に入るわけだ。

「あとあれだな。基本夜は野営だけど、明かりはあった方が良い。
 俺はランタン使ってるけど、武器ないなら松明にするのもありだし、
 魔法のランタンとかなら、消耗品じゃないしお買い得かもしれないな」

話していると俺には魚貝類のサラダと柔らかいパンが運ばれてくる。
街に居る時は極力外では食えないのを選ぶのが癖になってる。
それに、食事のバランスは身体を構成する精霊のバランスを保つらしい。
それが崩れると思いも寄らない病にかかる事があるのだ。

少々話がずれたな、と思いながらエールを飲む。
精霊の集会所とそこまでの道のりは、そこまで辛い訳ではない。
ただ人の手はあまり入っていないので、何が出るか解らないが。

ロシオは感心しつつ興味津々のようで、こちらも話しやすい。
ベラベラ薀蓄たれる男なんてのはかっこいいものではない。

「せっかくだからこの後、俺と道具屋行って冒険者セットとか見繕うか?
 いざという時役に立つかもしれないしな。
 俺の鎧も今日の夕方ぐらいには戻ってくるし、
 夜は危ないから明日から出るぐらいでいいんじゃないか?」

食事を終えエールを飲み干しながら見せる笑顔は、共に冒険する仲間へのものになっていた。
道具屋の後、鍛冶屋辺りにでも行って武器を見繕うのもありだろうし。
まだ見ぬ精霊の集会所へ思いを馳せ、もう一度楽しそうに笑って見せた。

Re: 納涼、鎮魂、そしてこれから - ロシオ

2017/11/28 (Tue) 10:21:12

「ん?ああ、ごめん、取りに戻る貴重品とかないって意味のつもりだった!
 ついお散歩みたいなノリで言っちゃったんだ!

 野宿がないってのはね、女王様の代で街道が整備されたから宿屋も沢山建ったんだ。
 私みたいな素人でも大体いい間隔でっていうか、夜になる前に宿屋に辿り着けたんだよ。
 私がウロウロしてたのはそんなエリア。
 今は見る影もないけど…。
 うん、商隊に混ぜてもらうっていい考えだね!
 今度から困った時はそういうのも探してみるよ!
 あ、でも悪い人だったらどうしよ…どうやって見分けるの?やっぱ雰囲気?」

女は今回の旅が楽しみな様子でペラペラとご機嫌でしゃべり続けるが、最後は腕を組んでうむむと唸り、そこで運ばれてきた料理に気付く。

「ハーイ、ありがと!…ってこのサラダ、リッツンの?
 こらまたヘルシーだね…ガタイがいいから肉食べてるイメージだったけど。

 三日セットがいいんだね。
 初めから準備するんじゃなくて、現地調達っていうのが慣れてる感じするわ~!
 後は明かりを忘れずに、と、さっすが~!!」

好きなことを言いながら女はフォークを持ちながら親指をグっと立てる仕草をする。

「お買い物!行く行く!
 七日セットにスペシャル版なんてあったんだね、それも買わないけど見てみたいし!
 分かる人がいた方が断然ありがたいよ!色々教えて!
 ちょっと待ってね、むぐ…」

この後と聞き、既に食事を終えた男性に遅れまいと女は食べ残しを慌てて詰め込む。
いかにも食事しましたと言わんばかりの口の周りを拭き、男性と一緒に会計を済ませれば共に外へ出る。
女の足は男性に聞いた道具屋へと向かう。
途中、横切った広場で立札が立ててあり、傭兵募集の案内であることに女は気付いた。
歩みは止めないが、ふと思いついたように声を落として話し出す。

「…最近、ああいうの多いよね。

 私、文句ばっかり言ってるけど、自分で何かした訳じゃないからさ、
 やっぱり私も何かした方がいいのかなーって思ったりもするんだ…。
 ホラ、『ルスの民よ今こそ立ち上がれ!』みたいな張り紙とか見なかった?
 …大体は人攫いの嘘だから気を付けるようギルドで声かけられたけど…。
 実際…義勇軍じゃないけど、そんなのの話だけ聞こうと思って行ったら
 装備品の採寸とか言って別室で変な雰囲気になりそうだったから逃げてきたことあってさ。

 じゃあ私が自分で立ち上がって呼びかけて仲間集うかって言われたら、そこまではって感じで…。
 それって、卑怯かなあ?
 リッツンはどう思う…ていうか、リッツンだったらどうする?」
 

Re: 納涼、鎮魂、そしてこれから - リッツ

2017/11/28 (Tue) 20:26:51

「ああ、なるほどな」
そういえば、ロシオはルスから来たんだった。

件の女王は軍を無くした金を、交易などが盛んになるような政治をしていたのだ。
街道を整備し、そこを行き交う人を守るために宿を作った。
今まで兵士だった者たちの多くは傭兵として警備に当たっていた。
宿を作るだけだと、夜盗の根城を作るだけになってしまうし、
単純に軍備……兵士を解雇すると食いっぱぐれた者たちが夜盗になってしまう。

そのような事は起きず、ルスは随分と栄えた国になったのだ。
……もっとも、それも過去の話になってしまったが。

「そうだなぁ……。雰囲気ってのも意外にバカに出来ないから、怪しいのには近付かないのが一つ。
 行き先と何を売るかを聞いてみて、探る事もできるな。
 例えば麦を売りに行くのに、荷馬車が軽そうだとかそういうのだな。
 他には……って、そうだ。女の一人旅だと悟られない様にするのは、絶対重要だ。
 女の一人旅なんてバレた日にゃあ、そりゃあもう大変だからな。
 治安に不安がある所だったら、同じ様に付いていこうとしてる奴らが居るはずだから、そいつらに混じるのがいいだろうなあ」

楽しそうに話しているロシオの様子を見ながら、彼女の疑問に答えていく。
旅慣れていないなら、色々教えるのも『旅の先輩』としては大事だろう。

でも並べてみたが、俺自身には役に立ってない知識だったりする。
そりゃあ、出るとこ出りゃあ賞金首だから当然だが、
そうじゃなくても、こんな図体している男にケンカ売るバカはそう居ない。
同じ領内なら兵士に付いていくってのが一番だが、当然ながら別の国には行けないのでここでは省いておいた。

そうこうしている内に注文していた料理が届く。
それにもロシオがツッコミ入れていて、思わず笑った後、怖いぐらいのシリアス顔になり、立ち上がる。
「おお、なんと嘆かわしい!貴女にはこの素晴らしさが分からないのですね!
 見てみろ、この瑞々しくも色取々の野菜たち!
 干からびてない、新鮮な海の幸!!
 街に居るからこそ味わえる、まさに最高の料理なのだ!!」

まるで神を称える司祭のように両手を天に掲げつつ、いかに素晴らしい料理なのかを力説する。
周りからは初めは笑いが起き、その後は何人かが「あれと同じものを」とか注文している。
……これだから、この店の回し者と思われるんだろうな、とか苦笑いをしながら座る。

「七日セットってなると、大抵は日付分の食糧が放り込まれてるんだよな。
 で、朝晩として14回同じ食事が続くわけだ。
 しかも、大抵の場合は塩漬け肉とパンなんだよ。
 食事なしを経験するとそれでもありがたい、ってなるんだが……。
 出来るだけまっとうに食を楽しみたいってなるとどうしてもな。
 
 ……かああっ、エールもいいけど、やっぱり柔らかいパンとか最高だな!
 ああ、そうそう。捕まえられるからって油断して食事を持っていかないとかはアウトだからな。
 釣りにしろ狩りにしろ成果なしってのも少なくないからなぁ」

俺の方は先に食い終わって、急がなくて良いと言いながら、のんびりとロシオの食べる姿を見ている。
急いで食べてる姿は、少し小動物を思わせて可愛らしい。
もう少し見ていたかったが結局急いで食べ終えたロシオと共に街に出る。

あの立て札は数日前からある。
『廃都となったルスを救う為、今こそ立ち上がれ!』とか酔っ払いの戯言の様な内容だ。
それがロシオも気になるのか声を落として聞いてくる。
少し苦笑いをした後、ぽんと軽く肩を叩いて答える。

「ここのは大丈夫だろうけど、確かに大抵は人攫いの常套句だな。
 まぁ、気にするこたぁねえよ。

 ああいうのに参加する奴も、マジメに『ルスの為』なんて考えちゃいない。
 ルス奪還のどさくさに紛れて一旗揚げようってとこさ。

 それに戦う相手は魔物だろ?ルスを奪還するってのなら。
 まず、戦いになるのかってのが先に来るだろうし。
 なにより『民』が戦わないで済む様に騎士やら傭兵やらがあるんだからな。
 ルスには兵隊が居なかったとはいえ、懇意にしている国もあるだろうし、そっちから軍が派遣されるさ」

――この時はまだ手紙は届いていない。
だからまさか、その派遣される兵を率いるのが俺自身だとは想像も出来なかった。
ただ、この立て札を見て自分も何かできる事はないか、なんて考えるロシオは間違いなく良い奴だ。

「そうだなぁ。もし俺だったら……。
 俺が戦いに行くことになったら、ロシオの分も頑張るかねぇ。
 この間魔物ともやりあったしなんとかなるだろ。
 ……っと付いた付いた。よぉ、俺の鎧直ってるかぁ?」

そうこうしている内に雑貨店に付く。
危うく「実は俺は騎士だから、お前の分もやってやるぜー!」とか言いそうになってた。
誤魔化す様に店の人に話しかけ、旅用の品が置いてある所に案内してもらう。
普通の旅の品だけでなく、魔法の掛かった品も置いてあるのは正直意外だったが、
ここなら一通りの品も揃えられるだろう。

Re: 納涼、鎮魂、そしてこれから - ロシオ

2017/11/30 (Thu) 14:18:28

「ん〜、この状態のルスに来るなんて、右手で壊して左手で立て直すような人しか考えられないよ〜。
 乗り込んできた挙句自分のものにしちゃうか、ルスの民以外の誰かにあげちゃうか何かするんだよきっと。
 …ごめん、リッツン、私心荒んでるかもしんない。
 精霊の集会所を見て心を洗わないとダメね!うん、行かなきゃ!」

雑貨店に向かう道すがら、女は男性との会話で肩をすくめたりため息をついたり意気込んだりと忙しい。

「…私の分もって…んん…」

そして女はそのままモゴモゴと口籠ってしまった。
安心するように肩を叩かれ、庇ってもらったと感じればうっすらと耳が赤くなる。
民が戦わないで済むように騎士や傭兵がいる上で、目の前の大男は場合によっては自分の分までやってくれると言っている。
だから自分は戦いの場に行かなくて済むという話に思わずホッとしてしまった自分は何て臆病なのだろうと思う。
けれど、彼はそこまで言及しなかったが足手まといになるくらいなら初めから引っ込んでいる方がよいことも分かっている。

「あの港町での戦いだね。
 あれがあったから何とかなる、か…リッツンこそいい人だし…強いね。
 私はあれで逆に怖くなっちゃって…あ、この店か、着いたんだ」

妙にズカズカと進み店員に声をかける男性に遅れまいと女も店内に身を滑り込ませる。
ここまでは神妙にしていた女だが、店の中に入ると様々な品物に目を奪われたようでぱっと顔を輝かせた。

「えっと、旅用品はこのコーナー?わ、わ、すごい!
 見て見てリッツン!魔法のかかったものまであるよ!…ってごめん気付いてた!
 立派だけどお値段も立派だわ〜!
 あ、これ、例の肉の見本?
 これと同じなのがどさっと入ってる訳ね、了解了解!
 飽きるか〜成程ねえ〜」

女は鎧の手続き待ちの男性をよそに、目的のものを探して歩く。

「ええと、三日セットってこれかな、すいませーん!
 ランタンはこれだけですか?ちょっと私には大きくて…もうちょっと小さいのあります?
 リッツンは何て言ってたっけ…えと、そう!魔法のでもいいです。
 あと松明は…武器にもなるのね〜私の方が火傷しないように気をつけなきゃ…
 あと狩りも考えると…えーと…何だっけ?」

女は食事時に聞いた男性の旅講義を思い出そうとする。
しかし『おおなんと嘆かわしい』のインパクトが強くて必要な記憶を取り出すに手間取る。

「…え、一人旅かって?
 あの、その、『違います』」

同じ品物を見ていた他の客に聞かれ、女は返事をする。
そこは強調しておかねばならないと先ほど男性に習ったばかりだ。
店内であっても誰が聞きつけるか分からない。
悪人かそうでないかを見抜くには雰囲気もだけど言ってることがおかしくないかとかそういうので判断するとよいらしいということも教えてもらった。
今後の為にも普段から意識して自分自身に習慣づけておいた方がよさそうだ。
…これまでは本当に運が良かったんだなあとつくづく思い、女はため息をつく。

「リッツーン!鎧どうだった?
 私はこんな感じだけどいいかなあ?
 適正価格とかよく分からなくて…ぼられてないかな?」

女が値札付きで持ってきたのは『冒険基本三日セット』『コート産上質発光石60%使用/魔法ランタン』の二つ。
松明はうまく扱う自信がなかったこと、羽織り物とナイフは自前のがあることを男性に話す。

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